19.認知症高齢者が入院せずに済む方法 (2016.5)
今回は、在宅の認知症の方が急性疾患を発症したときに、介護と協力すれば入院せずにすむこともあるというお話です。
認知症で一人暮らしをしている大山さん(仮名)は、84歳を超えていますが、実年齢より10歳は若く見えます。某高校の野球部監督をしていたとかで(未確認情報ですが)かくしゃくとした感じでスポーツウエアを着て天気のよい日は散歩をしています。ただ認知症で通院は困難なので訪問診察に行っています。普通に接して話してい ると、認知症の方だとは思えないほどなのですが、体調が悪いときには不穏となり、ある時は、ものを探し回り部屋中尿便で汚染してしまったこともあります。 長谷川式は8点でした。またある時、数日前より様子がおかしく落ち着きがない、デイの日ではないのにデイの周りを早朝よりうろうろしていたことがありまし た。このときは、臨時に往診し直腸診をすると直腸に便塊があり,浣腸したところ大量の排便がありました。認知症の介護の分野では、認知症の行動障害の原因 として便秘があることはよくしられています。大山さんもそうかとも思ったのですが何せ一人くらしなのでそのままでは心配です。といって病院に入院すると余 計不穏になることが予測されます。そこで思いついたのは介護施設での緊急ショートスティです。認知症ケアに熟達した職員のいるところでのケアと、私どもの 臨時の往診を組み合わせてみていこうという発想です。「ケア」もあるし「医療」もあることがミソです。ショート一日目の夜は一晩中落ち着かなかったようで 翌日往診するとぐっすり寝ていました。日中はおこして生活のリズムを乱さないようにと話しました。三日目にはすっかり落ち着いて無事一人くらしの生活に戻 れました。ここでいう介護施設は短期入所生活介護を提供する所です。配置医師がいるので本来は悪性腫瘍の末期以外の訪問診察は出来ません。が急病などで臨 時に往診することはできます。ただ訪問看護は利用できないので、点滴などは何度も往診して対応することが必要ですし、ショートスティの空きがタイムリーに なければ利用できないし、ショートスティの受け入れ先のケアのレベルがある程度ないと利用困難ですし、ショートスティのあいている期間で改善するかといっ たようにさまざまな課題があることは事実です。 しかし、認知症の「ケア」もあるし、在宅で診ている主治医が継続して「医療」を提供できることは、認知症 の方の入院以外の医療提供方法として有効であると思っています。
小規模多機能居宅介護(本紙で訪問記事があります)を利用される認知症高齢者の場合は、ケアを提供する職員とす でになじみの関係になっており、ショートスティ(泊まり)になっても混乱が少なく、かつ、医療も比較的フリーに提供できるというメリットがあり今後の普及 が望まれます。利用者にとって最もいい方法は何だろうと常に考えることが基本ですね。