生活環境を変えずに医療提供

20.生活環境を変えずに医療提供            (2016年6月)

 10年以上のつきあいの梅田さん(仮名)さんは、アルコールがとても好きでした。金沢市の庶民の台所である近江町市場から比較的近いところに一人くらしをされていました。歩いて、近江町市場に行っては新鮮な刺身を買い、好きな酒で晩酌をしながら食べることを日課としていました。ここまで書くと梅田さんは男性だと無意識に思われるでしょうが実は現在88歳の女性です。アルコール好きがたたったのか脳梗塞を繰り返し、一人くらしが困難となりグループホームに入居になりました。多発性脳梗塞のため、かなり強い仮性球麻痺をおこしてしまい嚥下困難になってしまいました。咀嚼能力も舌の大きな血管腫もありおちていました。時間をかけながらミキサー食を自力でスプーンを使いながらなんとか食べています。とんちの問題で「一日一食ですます方法は?」というのがあり、その答えが「朝から晩まで食べ続けること」というのがありますが、梅田さんもこれに近い状態でした。

 この梅田さんが、38.9度の発熱で食事摂取がほとんどできなくなったことで臨時に往診しました。軽度の意識障害があり、胸部聴診上は異常ありませんでしたが、呼吸数は1分間に35回の頻呼吸で、動脈血ガス分析でPO2が51.9Torrと急性呼吸不全の状態でした。CRPは1.45でしたが、白血球の軽度増多があり、肺炎と考え入院を考えました。しかし連携病院のベッドが満床ですぐの入院は困難でした。グループホームですので介護職の24時間の見守りがあるし、酸素吸入と補液、抗生剤の投与はグループホームでも可能なので、自院にある在宅酸素療法用の酸素濃縮器を運び込み酸素3リットルで開始しました。毎日往診し、一日1500mlの補液、抗生物質の経静脈投与を行ったところ、比較的速やかに改善し入院せずに治癒に至りました。

 PORT(Pneumonia Outocomes Research Team) Severity IndexPSIといって、成人の市中肺炎の重症度をスコア化して入院適応などの参考にする指標がありますが、梅田さんの場合、PSIが148とクラスV、重症と判断されることになります。当院から訪問診察に行っている方で2006年4月から2007年3月までの一年間に肺炎で入院された方は13人でしたが、PSIは77-131で平均108.2でした。梅田さんは入院はしませんでしたが入院したどの方よりもPSIが高値でした。

 生活環境を変えずに、なじみの関係の介護職が24時間対応し、医療も在宅医療として連日でかつ24時間の対応をすれば高齢者には安心した医療提供になると思われました。


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