44.保険証はどこ、ついでに出てきた夫の写真
村山はなさん(仮名)は、一人暮らしの91歳の女性です。全身のしびれを主訴に長らくA病院に通院されていましたが高齢で移動動作が困難になり訪問診察が開始になりました。難聴があり、訪問して会話するときは布団に寝ている村山さんの耳元に、こちらは四つ這いになって話しかけます。 初回訪問時は、切々と訴えるしびれのつらさに耳を傾けました。頭の先から足先までのしびれで、客観的な感覚障害がなく、無論運動障害もなく身体表現性障害かなとも思いました。「焼かな治らん」と話されますが、「何とかなるかもしれないので頑張ります」と応えると少しは期待を持った目で見返されました。
さて、独居の高齢者で認知能力が低下している場合は、保険証の確認もなかなか困難であるというお話です。保団連が出している「保険診療の手引き」には、「受診の都度、すくなくとも初診日及び各月の始めの診療日には被保険者証を確認するのが望ましい」とあります。初診日には必ずみせていただき、デジカメで写真を撮ります。が毎月となると少し怪しい面があります。訪問診察時には案内として、毎月被保険者証をみせていただきますといっている関係で、月初めに家族の方がきちんと被保険者証を呈示されることがあります。がそのうち曖昧になってしまっているのが現状です。ただそうはいっても、後期高齢者医療被保険者証の場合は、毎年7月31日で有効期限がきれるのでその時は必ず確認します。村山さんにも、「保険証をみせてください」と例のスタイルで話すと、ここに入っているはずといまは無き老人保健法にもとづく健康手帳を出されました。開いてみても該当のものがありません。「村山さん、ここにはありません。名刺と同じ大きさのものですがありませんかね」と聞くと、今度は旧いバッグを持ってきました。中を見ながら村山さんはこれでもない、あれでもないといろんなものを出しますが結局、被保険者証は見当たりません。が、証明写真大の比較的若い男の人の写真が出てきました。この方は誰ですかというと「お父さん」となつかしそうにいいます。若くして夫を亡くし子どもを育ててきた人生が垣間見えます。そんな感慨にふけっていても被保険者証は出てきませんので、村山さんに了解のもと、となりの部屋のテーブルや棚などをあれこれ探しますがとうとう出てきません。10分ほど探してその日はあきらめました。2週間後に訪問したときに、被保険者証は見つかりましたかと聞くと、これでしょうとまた健康手帳を出されます。出てきたんだな、やれやれと思って中を見ますと前回と同じです。旧知のケアマネに連絡して事情を話し、継続探索をお願いしました。独居で認知能力が低下している場合は、こういった書類管理もなかなか難しいなあと感じます。90歳の前半では約半数が認知症ですから、村山さんのような方は多いと思います。ちょっとした見まもり、ちょっとした助言、ちょっとした援助があれば大丈夫なんだがな、しかし制度としてはなかなか難しいですね。