非がん在宅高齢者の終末期の判断について

45.非がん在宅高齢者の終末期の判断について

今回は、「非がん在宅高齢者の終末期の判断について」というタイトルで2010年10月にあった第25回保団連医療研究集会で報告したことを紹介します。いずれも当院でみさせていただいた患者さんです。私だけではなく他の医師が担当した症例も含んでおります。
【目的】 在宅で長期療養中の非がん高齢者の終末期について、どういう判断のもとにどう対応しているのかを検討し、終末期の判断の現状を明らかにすることです。
【対象と方法】 在宅医療を受け、終末期と判断し在宅で看取りをした非がん患者30例と同様の基準で終末期と判断したが結果的には終末期で、はなかった3例。後方視的にカルテで終末期と判断した理由、治療の内容、多職種での検討の有無、終末期と判断してから死亡までの期間、訪問診察の継続期間、主疾患、年齢、性、自宅か居住系施設かなどを検討しました。
【結果】
1.終末期の判断;終末期の判断は、基礎に認知能力やADL低下を来す疾患が長期間有り、診察と血液検査で脱水や感染症などの急性疾患の合併による食欲低下ではないと考えられ、数日間の点滴でも改善しない例を終末期と考えた例が21名、急性疾患合併だが入院治療を望まず在宅医療で経過を見た場合が8名、肝硬変末期などの原疾患の経過と考えられる例が1名でした。1例を除き、終末期の医療処置についての自己判断はできませんでした。
2. 看取りをした方の平均年齢は90.7歳、終末期と判断してから亡くなるまでの期間は平均41.1ヶ月、医療処置としては、末梢からの補液有りが16.末梢からの補液無し12.終末期となる前からの高カロリー輸液が2例、胃瘻が1例でした。主要疾患ではアルツハイマー型認知症が7例、脳梗塞後遺症と老衰がそれぞれ3例、その他は種々でした。終末期であることを告知した場に参加したのは、一番多いのは家族・医師・看護師(この場合はクリニックの訪問診察看護師)で15例でした。家族・ケアマネ・訪問看護師・医師・看護師と関わる職種がすべて参加したのは1例のみでした。本人に告知されたのは1例のみでした。
3.結果的には終末期ではなかったのは3例でした。平均年齢は96.7歳、訪問診察継続期間は28.7ヶ月でした。全例に末梢からの点滴を平均39.3日継続しました。最長では82日間点滴をした後全例、経口摂取可能となりました。またこの3例は全例「居住系施設」でした。主要疾患は慢性腎不全(99歳)、アルツハイマー型認知症(90歳)、大動脈弁狭宿症(101歳)でした。

【症例】
91歳女性、アルツハイマー型認知症・糖尿病で7年前にグループホーム入居。200X年5月より食事摂取低下を認め。補液をするも改善しませんでした。食事摂取の低下の評価目的にビデオ嚥下造影検査を実施したところ、運動発動性弱く、咀嚼器の舌の運動が表れず、経口摂取での栄養充足は現実的で、はないと判断されました。摂食障害は認知症の病状進行に伴うものと考えられ、摂食障害の改善の可能性は乏しいと考えられました。家族は自然に何もしないでそのまま死を迎えたいとの意向で、胃瘻や中心静脈栄養は拒否されました。が、最低限の末梢からの補液には同意されたので、5月11日から7月16日まで末梢から1000mlの点滴を連日の訪問診療で実施しました。同時に経口摂取も介助で促したところ7月17日から食事がとれるようになったので点滴は週3日となりました。最終的に点滴は8月14日で修了し、以後1年以上経口摂取ができています。
【文献より】
1. 特養の常勤医師である石飛幸三の「平穏死のすすめ」(講談社)には「生物学的にも限界に来ている個体が終焉を願っているのに、何の権利があって医療を押しつけるのか納得できない(p.l78) ともある一方、「誤嚥性肺炎で入院し、経口摂取は困難といわれながら、胃痩を断ってホームに戻ってこられた女性---看取り介護の同意書を作成---若いときの写真を見た看護師がその美しさを絶賛したところ、本人は元気になって一年以上はたっています(p.l73) と終末期と判断した人が元気になった例の記載があります。生物学的に限界に来ていることの判断は客観的にはできないことをはからずも述べたことになっていると感じました。
2. 医事評論家の行天良雄さんがリハ医学会で、おこなった講演「介護とリハビリテーション」が、リハ医学2003 ;40 :1 71-174にでています。「98歳の父が、軽い脳卒中、その後全く動けず発語もない状態になりたくさんの専門家にみてもらってもせいぜい1-2ヶ月といわれた。---自分(行天さん)はどこまでできるかやってみようと自宅で介護をした、まさに24時間対応をした。すると、父親は自分で歩いて、自分で食事をとる、積極的に話すようになった。8年間続いた。106歳で亡くなった。一一湯水のようにお金がなくなった。」とあります。98歳で終末期といわれた方が手厚いケアで106歳まで比較的元気に生きたことの例です。年齢だけでは終末期かどうかは判断できないことを示されたと思いました。
3.仙台往診クリニックの川島孝一郎は日本在宅医学会雑誌11(2) ;198. 2010に「実体と構成概念」という文章を書いています。実体は「思考の内にのみ存在する概念と独立に、事物、事象として存在すること」であり、構成概念は「我々が知覚する事柄を理論的に説明するために構成され、導入される概念」としたうえで、終末期は構成概念であるとしています。構成概念を実体と誤認すると終末期医療に客観的な規定を設けようとするため混乱を引き起こすとのべています。
【結論】
1. 非がん高齢者の終末期を客観的に規定することはできないと思われました。
2. 死に至るまでどう生きてもらうかが重要ですが、そのことが、ケアのレベルに規定されているのが現状であると思われます。


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