介護者諸相(2)

40.介護者諸相(2)   

 吉村年子さん(仮名)はくも膜下出血の後遺症で左片麻痺と認知症を呈しています。くも膜下出血で倒れて6年になります。療養中に右大腿骨骨折を起こし手術も受けています。食事摂取以外は全介助に近い状態です。
 訪問診察の日はデイサービスの日にかさなりお伺いするのは夕方5時過ぎになります。デイから帰ってきた吉村さんはベッドに横になっています。「吉村さん、今日は」というと寝たままこっちを向いてにっこり笑みをかえしてくれます。何ともいい笑顔です。

 夫が主たる介護者です。時々嫁いだ長女さんが見にきていました。吉村さんの家は息子さん一家と二世帯同居ですがお嫁さんは全く手を出しません。訪問すると2階に住んでおられるお嫁さんの足音などが聞こえるのですが一度も顔を見たことはありません。夫もかなり高齢でいわゆる老老介護です。夫が手指の多関節炎で手に力が入らず介護困難になった時期があり(幸い、その後リウマチ科の診断で少量のステロイドで症状は改善しましたが)、その時ほどお嫁さんにちょっと手伝ってもらえたらと思ったことはありません。ケアマネージャーにお嫁さんに介護の協力を得られないのかと尋ねても無理だとの返事です。そういう関係になるには、どういう過去があったのだろうかと思ってしまいます。介護する側とされる側の関係は、それまでの長い両者の関係に規定されていると思われますが吉村さん夫婦とお嫁さんとの関係はわかりません。
 訪問すると、一般診察をした後、ベッドに端座位になってもらい、私はその横に並んで座り新聞の見出しを読んでもらいます。日常会話は困難な吉村さんですが、新聞の見出しは結構読めます。声を出して読んでもらい上手く読めると「読めましたね」と、看護師共々声をそろえて褒めると吉村さんもにっこりです。が、一番喜ぶのが夫です。破顔一笑というべき笑顔で「読めたんか、ハッハッハ」と声を出して喜びます。それを聞いた吉村さんは、さらににっこり笑顔です。

 夫は、その後パーキンソン症候群と認知症の症状が出てきて吉村さんの介護が困難になってきました。無論、お嫁さんはノータッチです。ついに吉村さんは特養に入居となりました。夫は要介護認定を受けヘルパーさんに入ってもらい生活を維持することになりました。しかし食事をまとめて食べてしまったり、ポータブルトイレへの移動動作が困難で床に転倒して失禁のまま起き上がれなかったりの状況となりました。お嫁さんがちょっと手伝ってくれたらなあとも思いましたが結局小規模多機能型居宅介護を利用することで(お泊まりが多い)生活を維持しています。その小規模多機能施設は吉村さんが入った特養と同じ建物にあります。夫をそこで診察した後、特養の吉村さんに会いに行ったときも、夫はにこにこ顔で吉村さんに話しかけます。
 現在は過去を移す鏡なのでしょう。良い人間関係の継続が求められることを痛感します。


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