17.在宅お花見会 (2016.3)
「在宅お花見会」と称して、毎年春に桜見物に、訪問診察中の方やその家族とでかけています。今年で20回目です。看護師さんが主体になってやってくれています。
一回目は、今なら当たり前の民間救急サービスがちょうど始まろうとしていた頃でした。脳卒中で寝たきりの夫を介護している山下さん(仮名)は、 押しの強いというより、とても父ちゃん思いです。父ちゃんを思う気持ちが押しの強さになっているわけですが、父ちゃんをなんとか外に連れ出したいという思 いから、試乗するという名目でその民間救急サービスを無料で借りることが出来たことが始まりでした。当時は今なら当たり前の通所系サービスが普及しておら ず、訪問診察に行っている人は、本当に「閉じこもり」状態でした。私たちの装備も往診車一台きりで寝たきりの患者さんと出かけるという発想は出てきません でした。民間救急サービスを、無料で利用できたという実績(?)に、人間図々しくなってまたお願いねということになり、今度はわれわれが便乗し2度目の無 料の利用がお花見になったのです。行き先は兼六園です。
脳幹出血で寝たきり、発語なしの状態で経鼻胃管(そのころはPEGはなかった)をされていた川上さん(仮名)、 今思い出せば経鼻胃管を抜くので夫がそっと抑制していましたね。川上さんを無料の民間救急サービスで迎えに行ってもらい兼六園まで移送してもらいました。 広坂の途中にある兼六園事務所に入る道から兼六園の梅林まで来てもらいました。兼六園の中に車で入れるのはここだけだということを事前に調査しておいたわ けです。兼六園内を散歩した後、兼六園の中では宴会は出来ないので梅林のところで小宴会(無論酒なし)を始めました。川上さんもストレッチャーにのってま ぶしそうにしながら宴会に参加です。といっても経鼻胃管なので食べたり飲んだりはしません。宴会の途中で人間カラオケで歌いながら,みんなで踊っていて、 ふと川上さんのほうをみたらびっくり。なんと手拍子をしているのです。いつもなら経鼻胃管を抜こうとする左手で、動かない右手を叩いて手拍子をしていたの です。みんな一瞬絶句した後、拍手拍手でした。ついてきた娘さんもびっくりすると同時に、そういう反応があるとは思っていなかった母親が手拍子をしたこと に喜ばれ涙されました。自宅で天井を見ていた川上さんとは全く違う川上さんがそこにいました。訪問診察のみでは絶対にみることができない川上さんでした。 訪問診察にいっている方との接触時間は一回に10分としても月に20分ほどです。生活の場での診療であることが外来や入院診療とは違う訳ですが、そのこと の利点を生かしているのだろうか、単に外来が水平移動しただけになってはいないだろうか、多職種や家族との協同が何よりも大切だが実践しているだろうかな どと、20年前のエピソードを思い出しながら考えました。