15.往診と犬 (2016.1)
「老人と海」という有名な小説があります。それをもじったのか「老人と犬」という高齢者施設で老人と一緒に暮らす犬たちの写真集がありました。今回はさらにそれをもじった「往診と犬」というお話です。
訪問診察にお伺いしているお宅には、犬を飼っておられるところが何軒かあります。以前、「往診必携」というタイ トルで戯れ文を書いたことがありますが、必携のものとして、ジャーキーという犬用の乾燥肉と犬年齢早見表をあげました。訪問診察に初めてお伺いして,犬が いると「何という名前ですか」ときき、次いで「今何歳ですか」と聞きます。聞いた年齢を直ちに犬年齢早見表を見ながら、「人間の年で言えば○歳ですね」と 親しげに話します。外で飼われている犬の場合は、毎回訪問診察時にジャーキーをあげて仲良くなっていきます。犬好きには、犬は特別な存在です。文字通り、 家族以上の存在になっている犬も大勢います。「○○(犬の名前)が死んだら私は生きていけない」と、介護している夫の前で真剣に語った奥さんもいらっしゃ います。
訪問診察時に,同行の看護師さんが犬に噛まれたことが2度あります。ああ、これは労災だなと思いました。いずれ も小型犬で、訪問すると帰るまでワンワンキャンキャン吠え続けているのが特徴です。これはてなづけようと思ってもまず無理で、家人に言ってつないでおいて もらうか別室にいてもらうしかありません。猛犬注意と張り紙があるお宅ではジャーキーをあげながら入っていくこともあります。がジャーキーのあげかたを一 歩間違うと手までがぶりとなる危険性がありジャーキーを投げて入ります。
実は,訪問診察時に犬がいると,犬の写真もとっています。この写真が役立ったことがあります。犬が脱走していな くなり、家人が顔色を変えて探しまくっていたときのことです。いくら文章で,何色の中型犬ですなどと書いてもイメージできないものですが、幸いその犬の写 真を訪問診察時に撮ってあったので,写真を提供したところ、その写真入りの手配書が効果があり具体的な連絡があったとの報告を受けたことがありました。犬 の寿命は短いので、少し長く訪問診察に行っていると犬が先に在宅で看取りを受けることがあります。その時に、訪問診察時に撮った写真が犬の遺影として飾ら れていました。そして感謝されました。
当クリニックも昨年10周年を迎え、記念誌を出したのですが、「往診で出会ったペットたち」というタイトルでかわいい犬たちの写真を一杯載せました。
在宅医療は、患者さんのみならず、介護する家人の健康状態や介護負担などへの配慮が求められますが、同居の犬にも配慮することでひと味違った訪問診察になります。