38.この頃多くなったもの、少なくなったもの
訪問診察では当然のことながら、市内をあちこち車で移動します。そうすると最近増えたなあと感じたり、逆に減ったなあと思うものがあります。ここ、10年間くらいで増えたなあと思うのは、セレモニーホール・携帯電話販売店・コンビニエンスストア・回転寿司などです。逆に減ったなあとと思うのは、ガソリンスタンド・電話ボックス・小僧寿司などです。それぞれに世相が伺えます。
セレモニーホールの増加は、まさに多死の反映です。厚生労働省の人口動態年間推計で、2009年の国内の死亡者数は114万4千人で、戦後統計をとり始めた1947年以降最多となったそうです。今後は170万人程度まで増加していくことが予測されています。金沢市をみると死亡者数は1980年2401人が1997年3003人が2007年に3619人と増加しています。10年間で1.2倍の増加ですがセレモニーホールはもっと増えている印象です。葬儀の場所が変わってきたこともあるのでしょう。
携帯電話販売店の増加と、電話ボックスの減少は裏表です。
コンビニエンス・ストアの増加も著しいものがあります。ある時間帯に行って、期限切れのおにぎりなどを捨てているのをみて、便利と引き替えに資源を浪費しているなと感じましたが、便利さを提供されると利用してしまうように社会が作られています。
ガソリンスタンドの減ったのは、燃費の良い車が多くなったためでしょうか。安売りで競争力のないスタンドが廃業した面もあるでしょう。
小僧寿司は、高嶺の花だったお寿司が庶民に安く手に入るということで一時期はあちこちあったものですが今ではほとんどなくなっています。少し値段が高くてもよりおいしいものをということなのでしょうか。これと裏腹で回転寿司は増えています。
訪問診察と関係ない話が続いていますが、訪問診察にまつわる話で最近減ったものの話のイントロダクションでした(長すぎる)。以前のこのシリーズで老人と海→老人と犬→往診と犬の話を書きましたが、最近はたと気づいたのがお伺いしているお宅で犬を飼っているところが激減していることです。往診車に積んであったジャーキーという犬のえさは出番がなく、完全にひからびてしまい、犬年齢早見表も全く使わなくなってしまいました。なぜ、飼い犬が減ったのでしょうか。私の担当しているお宅のみならず、他の先生のところも同様のようです。偶然ではなさそうです。無論、有料老人ホームやグループホームなどの居住系施設にはペットはいませんからそこが増えたためという推測もなされますが自宅での犬が減っていることに間違いありません。私は、これは在宅介護力の低下と同一線上にあるのではと考えました。独居の高齢者、老老介護がふえれば当然犬を飼う余裕はありません。「往診と犬」という話が、過去のものになりつつあることにあらためて驚いています。超高齢社会の動きは予測以上に早いものと思われます。