32. 認知症一人暮らし 内服はデイで情報はヘルパーから
大山佐知子さん(仮名)は、81歳の女性です。月に一回訪問診察に行っています。今回は独居または家族はいるが介護されていない認知症高齢者の訪問診察の話です。大山さんは当院の認知症対応の通所介護を利用されています。通所介護の職員が、浮腫があるのでみてほしいとのことで診察すると、心不全で治療が必要と判断されました。月に一回訪問します。本人は認知症のため留守番ができず家には鍵がかかっています。家に入るときはあずかっている鍵を持参して玄関を開けて入ります。すると1人でいる大山さんは、私のことが誰だかわからず怪訝な顔をされます。白衣をみてどうも医者らしいと認識されるようです(白衣を着ていなければ怪しい男だと思われるかもしれない、医は衣なりとはよくいったものです)。内服管理は無論できず、不十分ながら通所介護利用時に内服してもらっています(認知症で独居の高齢者の内服管理ではデイを利用して内服してもらっていることがままあります)。ただ、内服は一日一回朝というシンプルな処方でなくてはなりません。たまに朝夕2回とデイに行っているときに2回のんでもらうこともあります。といっても毎日デイがあるわけではないのでのめる範囲でのんでいただいています。こういったラフな服用でも特に問題ありません(ワルファリンなどはだめでしょうが)。デイに行っていない場合は、訪問介護での対応を依頼するときもあります。必要最小限の薬剤数、一日一回朝のシンプルな処方が必須です。
大山さんに訪問診察に行っていますが、家の中は足の踏み場もない状態です。洗濯物があちこち干してあり背をかがめて移動しますが、時にパンツなどの洗濯物が肩に引っかかってくることもあります。こうして訪問していても、大山さんが大多数の時間をどう過ごしているのかは見えません。通所介護の職員も送迎で自宅には行きますが自宅での生活がどうなっているのかはなかなか把握できません。ここで重要な情報を提供してくれるのがヘルパーさんです。食事はどうしているのか、身の回りのことはどうしているのか、生活面で何ができていて何ができないのか,こういった情報はヘルパーさんがもっています。しかしヘルパーさんも、ケアプランにもとづき何を何分でおこなうということに追われて大山さんが何ができて何ができないのか、どういうヘルプをすることが大山さんに必要なのかの検討が十分できないのが現状のようです。
訪問診察で診療して処方しても、その内服管理や生活面での情報収集などは、独居の認知症の方の場合、通所系サービスやヘルパーの協力なくしては困難です。診療のみだと徒手空拳のような気持ちになってしまいますが多職種との共同で手応えを感じることができます。