骨折があっても痛いと言わない、痛いと言ったら本物だ

25.骨折があっても痛いと言わない、痛いと言ったら本物だ                            

  高齢者が疼痛を訴えることはよくあります。膝が痛い、腰が痛いと言って病院に行っても「年のせいで仕方がない」といわれ、湿布を出してもらって何とかだましだまし生活を送っている高齢者も多いと思われます。癌性疼痛に関しては、緩和ケアの重要性が叫ばれる中で治療法も一定確立している関係で無関心でいる人はいないと思いますが、骨関節疾患ではまだまだ関心が少ないのも事実です。

 腰椎圧迫骨折とその後の神経根痛で整形外科に入院したものの、座薬と湿布で我慢させられていた(としかいいようがない)患者さんで、家族が何とかならないかと外来に患者さんを連れてこられたことがあります。患者さんは腰椎圧迫骨折をおこす前は、パーキンソン病で通院していたのですがいつも笑顔で来られていました。その方がまさに「幽鬼」とでもいう感じになっており、疼痛による消耗のひどさを実感したものです。連れてきた娘さんと顔を見合わせ言葉を失うほどでした。がん以外の高齢者の疼痛に対しても敏感にならなくてはと思います。

  さて、今回の話は高齢者の疼痛のウラに思いがけない疾患が隠れていた二つのお話です。

 愛宕信二さん(仮名)は90歳の男性です。腰痛がひどく通院困難となり訪問診察を頼まれました。この方の奥さんにも過去に訪問診察に行っていました。腰部脊柱筋に硬結と圧痛があり、いわゆる腰痛症だろうとキシロカインの局注をしましたが効果は今ひとつでした。椎間関節からの痛みの可能性があり椎間関節内注射をしましたが一時的な効果があるようなもののそれほどの改善はありませんでした。しからばと、少しかじったAKA(arthrokinematic approachの略でエーケーエーとよびます)を行うと、ああいいかなと思うのですがやはり効果は持続しません。それではと、ちょうどクリニックに導入したマシーンでパワーリハを行いましたが効果がありません。これで2年間がたっていました。そうこうするうちに貧血が進行していることに気付かれ、血沈も異常に亢進しており、検査の結果多発性骨髄腫であることがわかりました。一生懸命やるのはいいのですが、ピントが外れていては何にもなりません。きちんとした鑑別診断と必要な検査の実施が在宅であっても必要だと痛感しました。

 認知症で、通院の後グループホームに入居になった田中栄三さん(仮名)が、しばらくしてから、何かの拍子に痛い痛いと大声を上げるようになりました。どういうときに痛がるかと考えても、再現性がなく、本人にどこが痛いかと言っても的確な返事はありません。けろっとして痛がらないこともあり、心因的なものかとも思ったくらいでした。しかし、しばらくして検査すると膀胱癌の骨転移で大腿骨の骨折がありました。的確に痛みを訴えることが出来ない認知症の方の場合、その方が痛い痛いと言うときはなにか重大な病気が隠れていると思っていいと感じています。なぜなら認知症の方は、これは当然痛いだろうと思われる圧迫骨折や、恥骨骨折があっても痛くないと言葉では言うからです。痛いと言えば本物だと考えきちんと診断することが必要です。


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