胃ろうを巡り姉妹が一触即発・胃ろう最長の方の延命

 保険医教会主催の医師とコメディカルのためのシンポジウム「胃ろうはほんとうにやめられるか」が以前ありました。この時に当院での胃ろうについてまとめてみましたので今回はそのことと胃ろうにまつわる印象に残っているお二人のお話です。
 古いデータですが、2007年7月から2012年6月までの5年間に、当院で訪問診察を行った方は418名になります。その中で胃ろうを使用していたのは24例でした。全体の約6%です。訪問診察開始後に経口摂取困難となり胃ろう造設した方が8名で、残りの16名は訪問診察開始時から胃ろうを使用していました。途中で胃ろう造設になった方8名中、5名が神経難病で2名は脳血管障害、1名のみがアルツハイマー型認知症でした。訪問診察開始時より胃ろう使用していた方16名中、3名が神経難病、7名が脳血管障害、1名が認知症、4名がその他でした。いずれも、神経難病や脳血管障害による器質的な嚥下障害に対しての処置としての胃ろうが大多数でした。認知症でだんだん食べられなくなってという方は少数でした。当院で管理する様になってからの胃ろうの期間は、最長121ヶ月で最短2ヶ月で平均47ヶ月でした。24例の転帰ですが、8名が在宅生活継続、5名が在宅で看取り、5名が入院して死亡、胃ろう中止が3名、入院して生存が2名、施設入居が1名でした。

姉妹が一触即発
 アルツハイマー型認知症で、訪問開始以後に食べなくなって胃ろうを造設した枝長さん(仮称)のお話です。枝長さんは初診時81歳の方で、大事なものの紛失、リモコンやレンジの使用困難などがあり受診。アルツハイマー型認知症と診断しました。その後独居困難でグループホームに入居、さらに移動動作が困難となり訪問診察となっていました。その後、食事摂取量が低下し、その原因が摂食への認知や意欲の問題なのか、嚥下機能の低下なのかを見極めるために入院精査したところ前者と考えられました。この時点で娘さん2人に病状を説明し、選択肢として胃ろうについて相談しました。長女さんは、食べない理由がアルツハイマー型認知症の経過できているのなら胃ろうをせずにという意見で、三女さんはこのまま何もしないのは納得できない、是非胃ろうをとの意見で、診察室に火花が飛び散ります。お互い相手の顔も見ないでの論戦で火花に冷たいものも感じます。結論として胃ろう造設となりその後の経過は34ヶ月でした。最後は、姉妹が泊まり込み、最後を看取りました。その中でお二人に何度か病状説明し、お二人も一緒に母親の最後を看取ることができたことでお二人の距離が縮まった様な気がしています。枝長さんもあの世でほっとしているのではと思っています。

胃ろう最長の方の延命
 武田さん(仮称)は、多系統萎縮症で他院で胃ろう造設した後、当院から訪問診察に行くようになった現在71歳の方です。約10年になります。見た目には無言無動状態ですが、家族はちょっとした反応を喜びながら一生懸命介護されています。武田さんが肺炎を起こして入院し人工呼吸器をつけなければあぶない状態になったときに、いつも介護している妻は、ここまできたのだからつけなくてもと思ったのですが遠方からかけつける肉親が来るまではと思い人工呼吸器装着となりました。私が病室を訪れ、人工呼吸器が装着されているのをみたときは、正直「え、人工呼吸が付いている」と思いました。が、その後武田さんは無事、人工呼吸器から離脱できて元通り在宅生活に戻ったのをみて「延命」という行為の持つ多様性を実感しました。

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