10.ちょっと変よ、どうしたのかな(2015.3.31)
「山口さんちのつとむ君」という歌を作詞作曲した、みなみらんぼうと私が似ていると言われたことが原因ではありませんが、この歌の中にでてくる「ちょっと変よ、どうしたのかな」という言葉をタイトルにしてしまいました。この言葉に表される、(患者さんが)いつもと何か違う、ちょっと変という、家人や訪問看護師の観察が大事という話です。この歌を口ずさみながらよんでいただくと臨場感がでてよろしいかと思います。
訪問看護ステーションの看護師から、岩下さん(仮名)が 少し変だとの連絡がありました。パーキンソン病の進行した状態で、ほぼ寝たきりで、バルーンカテーテルも留置されています。頚髄症で歩行器歩行がやっとで 軽い認知症がある夫との二人暮らしです。何とか経口摂取が出来ているのですが、ここ2日間ほど食欲が少し落ちて、元気がなくかつ血圧が高いという連絡でし た。以前にも訪問看護師から血圧が高いのですがと連絡があったことがあり、その時は、「どこか痛いのではないか、バルーンカテーテルが詰まっているのでは ないか、便秘なのではないか」と問い直した結果、バルーンカテが閉塞していることがわかり、開通させたらすっと血圧が下がったことがありました。
今回もその伝で、「発熱はないか、便秘はどうか、尿は出ているのか、内服はきちんとされているのか」、などを矢継ぎ早に問うも、今回はどれもないという返事でし た。それではと臨時に往診に出かけていき診察すると、確かにいつもの元気がありません。こういうときは家人の印象もとても大事なので、夫に聞くとやはりい つもより弱っているとの答えでした。一般診察に加え、SPO2もみるが異常がありません。一般診察から得られる情報はこういう場合比較的少なく、それで異 常がないからといって安心できません。入り口の所は、いつもみている人(訪問看護師か家人)の 印象のほうが確かな事が多い印象を持っています。
別の機会に医師が家人からの往診依頼で診察しているのに経過観ましょうという判断でその後すぐに病状が重 篤化した例を報告しますがその経験からもそういう印象を持っています。その印象を大事にして、診察上全く異常が無くても何かあるというふうに思うことがポ イントと考えています。とりあえず、血算・電解質・肝機能・腎機能・CRPをチェックすることにしています。当院ではクリ急という名前でセット検査にして います。今回は血清ナトリウムが115と低値とでました。しかしあわてずに、本当にそれと症状が一対一に対応するのかどうかはわからないと自問自答しま す。異常データがあったからといってすぐそれで説明できるとは思わないことが必要です。梅干しにゆかりをかけて味塩を振り食べてもらおうなどと冗談を言い ながら低ナトリウム血症の鑑別を考え、岩下さんの点滴の指示を考えます。