29.訪問診察依頼あれど、始まらずそのまま中止(1)
クリニックに訪問診察依頼があっても、結果として訪問診察が開始にならないことがあります。ちょっとまとめてみたら今までに38名の方が依頼があっても開始にはなりませんでした。今回はそういう方々のお話です。
1.がんの終末期で入院中の方が、在宅での療養を患者さんも家族も希望し、主治医からは訪問診察の依頼があったのですが、通院を選んだり、病状が悪化して死亡退院になる場合があります。
森川太郎さん(仮名)は71歳の男性です。直腸癌、癌性腹膜炎でA病院の外来で化学療法を行っていましたが、嘔気が出現し飲まず食わずの状態になりA病院に入院になりました。骨盤内病巣による小腸イレウスが原因と診断されました。排液のための胃瘻造設を行い、在宅CVの手技を家族に指導し退院となりました。この時点で訪問診察の依頼があったのですが家族は訪問診察ではなく、病院主治医の外来通院を希望され2ヶ月後に再入院し死亡されました。家族にしてみれば長らく手術も含め主治医であった医師から顔も知らない訪問診察医にバトンタッチされることに不安が強かったのでしょうか。退院前からの面接で本人家族の思いを十分に聞き、在宅での不安などにきちんと説明がなされるべきであったなあと感じました。
また、B病院に入院中でがんの終末期の方で家族がつよく在宅医療を希望し、当院に訪問診察依頼があったのですが、嘔吐が続き経口摂取も飲水も困難な状態で血圧も低下しそのまま病院でなくなった方もおられます。
JPAPというがんの疼痛緩和治療の普及を図る非営利団体による金沢での第2回目のカンファランス(2009年4月)に出たときに症例報告があり、そのうちの一例のスライドに「患者・家族は強く在宅を希望したが困難だった」との記載があり、帰せなかったのかなあと感じたこともあります。
県の在宅緩和ケアの研修会に出たときに、がんの終末期で入院中の患者さんの80%が家に帰りたいと希望しており、主治医の80%が在宅は無理と感じているという話を聞きました。
これらには、さまざまな要因が絡んでいるのでしょう。在宅が本当に困難な病状の不安定さ、自宅に帰るタイミングの問題、病院主治医と在宅医の連携の問題、在宅側の緩和ケアのレベルの問題、多職種共同で支える在宅医療への理解の問題、24時間365日対応が可能な医療機関の周知、家族が希望しない場合、医療を提供するためには生活が成り立たなければならないが在宅介護力が低下していて退院できない場合、などなど。顔が見え、力量がわかる(安心して依頼できる)連携を病診でつくっていく必要があります。長崎ドクターズネットの実績には学ぶべき点が多いと感じています。金沢でも是非作りたいですね。
石川県保険医協会では今年の企画として、地域医療室訪問が始まります。上記のことも是非話題にしたいと思っています。