48.在宅医療は心不全の血管拡張療法!?
高齢者は環境の変化への対応が困難な場合がおおいと言われています。それが如実に現れるのが入院です。入院したら、おじいちゃんが歩けなくなったとか、認知症がすすんだとか家族からよく聞かされます。リロケーション・ダメージという言葉もあり世界共通のようです。高齢者医療のナショナルセンターである独立行政法人国立長寿医療研究センターの総長である大島 伸一さんが、とある学会のシンポジウムで「在宅には不思議な力がある、在宅に病院から戻ると元気になる、このことを医学的に解明する必要がある」とおっしゃっていました。それは在宅のみならず、生活の場であるグループホームなどでも一緒のことで両者の共通項を考えると自ずから答えが出てくると思いました。それはなじみの空間で、なじみの人間関係の場だということです。そしてその場の主人公はその人自身であることです。三好春樹という介護分野では有名な人がいます。この方は医師と看護師のことをよく思っていない方で(医師で一目置いているのは、太田仁史氏と竹内孝仁氏の二人だけ?)すが、高齢者が医療の場面におかれた場合と、福祉の場面におかれた場合での決定的な違いは、後者は高齢者(三好春樹は年寄りと呼んでいますが)に「いやなことをしない」と述べています。考えてみれば、医療はその行為の意味を理解できない認知症の高齢者にとってみれば「いやなこと」ばかりです。
このことに関連して思い出したのが、以前行われた保険医協会での在宅医療講演会でした。日本在宅ホスピス研究会会長で、岐阜市で開業されている小笠原先生に講演していただいたのですが、先生は名古屋大学医学部にいる時に心不全の改善因子が何かということを一生懸命研究したとのことです。75歳の男性で虚血性心筋症のため,心不全で年間3回の入退院を繰り返す人の在宅主治医となった話です。平成3年4月から在宅医療(緩和ケア)を開始し、その後10年間、好きなものを食べて入院歴無しで過ごせた例を呈示し、「在宅医療は心不全の血管拡張療法」だとおっしゃいました。在宅医療開始時は心胸比が82%あったのが平成6年には心胸比54%となったとのことです。自宅にいて安心、安楽、気まま、自由感のなかで生活することで血管へのロードが減ったのだろうと推測されています。
これを科学的に明らかにすることは、なかなか困難でしょうがストレスフルな環境は、生体にとって良いことでは無いだろうと容易に推測されます。予備力の少ない、また理解しての忍耐が困難な高齢者(特に認知症)には、特にそうです。入院であってもその事を理解した上での医療の提供が望ましいのですが、キュアが優先されるなかではなかなか困難です。入院でもなじみのヘルパーが1週間ほどつきっきりでケアすることができたらいいなと夢想しています。究極の医療と介護の連携です。
竹内孝仁氏は『医療は「生活」に出会えるか』という本を今から20年以上前に出しています。読者諸兄にも一読をおすすめしたい本です。在宅は形としては、生活に出会える医療と言えますが、その生活という意味と本質を深めていく必要があると感じています。