心不全 急性増悪なのか末期なのか

47.心不全 急性増悪なのか末期なのか

死んでもいいから入院したくない、早くお父さんの所に行(逝?)きたいと言い張る方への訪問診察の話です。

 川南ゆうこさん(仮名)は87歳の独居の方です。三尖弁閉鎖不全による慢性心不全、慢性腎不全、両側変形性膝関節症で近医に通院中でした。が徐々に心不全は増悪していきました。
8月はじめより食欲低下があり近くに住む娘さんが心配して8月17日に他の医療機関を受診しました(入院のことも考え)。本人はこのまま逝きたいとのことで検査などは希望しませんでしたが外来で診たS医師の粘り強い説得で腹部CT、心電図、血液検査などをしたところ高度の腹水、胸水を認めました。また採血ではBUN61,クレアチニン1.8の腎不全、130mEq/lの低ナトリウム血症、およびCRPが12で白血球増多を認めました。心不全末期、尿路感染床の診断で入院加療をすすめられましたが本人は入院は絶対にしないとの決意です。
医師は倫理委員会に急遽かけて、このまま治療せずかえしていいものかと論議しました。その委員会でそれなら在宅医療で対応したらどうかという意見がありそれはいいという結論になったとのことです。それで当方に依頼がありました。外来主治医と看護師長がクリニックに相次いで見えられ診療情報提供と顛末を話されました。翌日の8月18日に早速訪問しました。初対面でゆっくりと川南さんのお話を聞きます。10年前に亡くなったご主人の所に早く行(逝?)きたいを繰り返されます。わかりましたよ自然体でいきましょうねと話しつつ現在の症状は心不全の末期ですべて説明できるのかと考えます。
近医ではジギタリスが0.125mg処方されており食欲低下はジギタリス中毒ではないかと考えとりあえずの中止と血中濃度測定をしました。5.9と中毒域でした。中止のまま様子をみ、尿路感染症にたいして処方されたラリキシンを継続したところ徐々に改善してきました。食事摂取量が少なく、かつ飲水量も少なかったのが幸いしたのか高度の下肢の浮腫も軽減し、腹水で膨満していた腹部もしわが見えるようになりました。当初週2回の訪問を3週間続け、その後週一回としましたが、川南さんは元看護師さんだったこととか、勤めていた医院が現在私が訪問診察に行っているお宅の隣だとか、私との信頼関係もできてきたなと思いますが相変わらず「お父さんの元に行きたい」といいます。そのたびに自然体でいきましょうねと話します。若いときの写真を見せてもらったら今の川南さんの2.5倍くらいの体重で内側から皮膚がぱっつんぱっつんにはっており今のしわだらけ(浮腫がとれたから余計にしわが目立つ)とは大違いです。そんなことを笑いながら話します。ep47-img

訪問開始時の頃、静岡からもう一人の娘さんがきていて2週間後に白内障の手術があるのだが、このまま金沢にいた方がいいかと聞かれ無難な答えで伸ばせるなら伸ばした方がいいでしょうと話しました。非がん疾患の終末期の判断は困難です。Lynnらの疾患群別予後予測モデルでも心疾患は急性増悪を繰り返しながら徐々に機能低下し最後は比較的急な経過をとるとされています(図)が、急性増悪時が末期なのかまた回復するのかの判断は困難とされています。急性増悪の要因をきちんと評価し対応し、後は自然体でいくしかないかなと考えています。川南さんは食事摂取量も徐々に増えて比較的元気に過ごされています。静岡の娘さんも帰られました。


«……»